― Sonnets from the Portuguese ―
I
I thought once how Theocritus had sung
Of the sweet years, the dear and wished for years,
Who each one in a gracious hand appears
To bear a gift for mortals, old or young:
And, as I mused it in his antique tongue,
I saw, in gradual vision through my tears,
The sweet, sad years, the melancholy years,
Those of my own life, who by turns had flung
A shadow across me. Straightway I was 'ware,
So weeping, how a mystic Shape did move
Behind me, and drew me backward by the hair;
And a voice said in mastery, while I strove,
"Guess now who holds thee ?" - "Death," I said. But, there,
The silver answer rang,--"Not Death, but Love."
II
But only three in all God's universe
Have heard this word thou hast said,--Himself, beside
Thee speaking, and me listening! and replied
One of us . . . that was God, . . and laid the curse
So darkly on my eyelids, as to amerce
My sight from seeing thee,--that if I had died,
The deathweights, placed there, would have signified
Less absolute exclusion. "Nay" is worse
From God than from all others, O my friend!
Men could not part us with their worldly jars,
Nor the seas change us, nor the tempests bend;
Our hands would touch for all the mountain-bars:
And, heaven being rolled between us at the end,
We should but vow the faster for the stars.
III
Unlike are we, unlike, O princely Heart!
Unlike our uses and our destinies.
Our ministering two angels look surprise
On one another, as they strike athwart
Their wings in passing. Thou, bethink thee, art
A guest for queens to social pageantries,
With gages from a hundred brighter eyes
Than tears even can make mine, to play thy part
Of chief musician. What hast thou to do
With looking from the lattice-lights at me,
A poor, tired, wandering singer, singing through
The dark, and leaning up a cypress tree
The chrism is on thine head,--on mine, the dew,--
And Death must dig the level where these agree.
by Elizabeth Barrett Browning
― ポルトガル語からのソネット ―
1
わたしは、まえにいちど、考えてにみたことがあるの。あのテオクリストが、
心たのしき歳月について、懐しく待ち侘びられる歳月について、どんなふうに歌っ たかということを。
そのような歳月のひとつひとつは、贈り物をやさしい手にいっぱい携えて、
なべてひとのまえに、そう、老人のまえにも青年のまえにも、たちあらわれるも
のなんだそうよ。
そして、わたしが、この詩人の古い言葉にみちびかれながら、そんな考えにひたり
きっているうち、
涙にうるんだ視界のむこうに、だんだんに像をなしながら、
楽しくまた悲しかった歳月のことが、憂鬱にとざされた歳月のことが、目に浮かん
できたの。……
それは、わたしの生涯に入れかわり立ちかわり現れてきては、暗い影を投げか
けたものだったわ。
そのとき、ふと、わたしは気づいたの。そうやって涙にかきくれているうち、
神秘ななにかの物影が、わたしの背後にたしかに動いたのを。
すると、その影は、髪をつかんでわたしをうしろに引き寄せたの。
そしてひとつの声が、もがいているわたしを押さえつけるように、こういったん
だわ。……
「いま、あなたを捉えているのは、だれだと思いますか」と――。「死です」と
わたしは言った。しかし、そのとき、
応答の声が銀鈴のように響いたんだったわ……。「死ではない、愛じゃよと」と。
2
けれども、神の統べたもう全宇宙で、
あなたのおっしゃったこの言葉をしかと聴きとめたのは、わずかに三人。
お話になっているあなたのほかは、神ご自身と、じっと耳傾けているわたしとだ
け。そして、答えたのは、
わたしたちのうちのひとり。その方こそ神さま。そのお方が暗い帳のように
呪詛をわたしの瞼にお置きになったの。罰として、
わたしの視力を奪い、あなたの姿を見えなくするために。
それだから、わたしがかりにも死んでいたら、この瞼に置かれた死の重さも、これ
ほどまでには徹底して
あなたのお姿を振り払うなんて、そんなことは思いも寄らなかったはずだわ。
神さまに否定されるって、それは、他の何ものに否定されるよりもよくないこと
よ。
ああ、わたしのお友だち、世間のひとが口煩く騒いだって、二人の仲をひき離せや
しないわ。
海だって、わたしたちを心変わりさせることはできないわ。嵐だって、
二人の意思を曲げられやしないことよ。わたしたちは、この手で、
あらゆる山のような障害と取り組んでみる。すると、最後には、二人の間に
天国がころがってきて、わたしたちは、一きわ心をこめて星にお祈りを捧げるの。
3
似ていない、まるで似ていないわたしたち。おお、王侯のようなお気立てですの
ね。
似ていないといえば、わたしたちの習慣や運命までもそうなんだわ。
わたしたちの守護の天使がふたり、
飛びちがいざまに翼を合わせ、
驚きの顔を見合わせているわ。お考えになってみたかしら――
あなたは、かずかずの社交の席に招かれて女王たちの賓待をお受けになり、
このわたしの目を光らせる涙の粒よりもずっとまばゆく輝いてみえる。
かずかずの視線の注がれる的となって、
楽人の主役」を演じられたお方なのよ。
格子窓の明かりでわたしを見つめたりなさり、どうなさるおつもりかしら。
みじめな、疲れはてた、さすらいの歌うたいでしかない、このわたしを。
暗闇に歌うたいながら、糸杉の木に身をもたれかけている。このわたしを。
あなたの頭には聖油が置かれ、わたしの頭には露がおりている――
この二つが同じ高さになるためには、死が地均ししてくれないとだめね。
Next